安心を絶え間ない市場の変化に、厳格な温度や時間管理。
難易度の高い医薬品輸送にチームで挑む「Pharma Desk」の活動に迫る。
安心を絶え間ない市場の変化に、厳格な温度や時間管理。
難易度の高い医薬品輸送にチームで挑む「Pharma Desk」の活動に迫る。
安心、安全な医薬品輸送をめざして
たとえば、コロナ禍に多くの人が頼ったワクチン。こうした医薬品の輸送は、突発的な需要が発生することも少なくなく、加えて厳格な温度や時間の管理が必要となる、きわめて難易度の高い輸送業務だ。
そうしたなかでIATA(国際航空運送協会)は、医薬品航空輸送において守るべき統一基準を定めた品質認証プログラム「CEIV PHARMA」を策定。ANAは、この認証を2017年に日本の航空会社として初めて取得。これに伴い、医薬品航空輸送に関する商品企画から営業、オペレーションまで、部署の枠を超えた密な連携を目指し「Pharma Desk」を設置した。

ANAは日本の航空会社として初めて、国際品質認証「IATA CEIV PHARMA」認証を成田空港にて取得しました。
▶︎ 認証について詳しくみる
多くの人々の健康を支える医薬品輸送の品質向上に、各部署のプロフェッショナルたちは日々、どのように向き合っているのか? Pharma Deskにかかわる4名へのインタビューから紐解く。
ANA Cargo社員全員に加え、パートナー会社を対象にした教育も
「Pharma Desk」の運営事務局が置かれているのは、品質保証部 品質管理課。ANA Cargoとしてサービス品質の向上に向き合うため、2025年に新設されたばかりの部署だ。同課に所属する安永茉由は、Pharma Deskについて「ANA Cargoの医薬品輸送の中心地」と語る。
安永:Pharma Deskには、マーケティングからセールス、オペレーションまで約10部署から、事前にIATAの医薬品輸送トレーニングを受けた担当者が出席しています。月に一度定例会議を実施しているほか、商品特性に基づき適切な判断が必要となるケースでは、各関連部署と協議のうえオペレーション内容や輸送ルートを決定しています。
ANA Cargo 品質保証部品質管理課 安永茉由
医薬品輸送の難しさは、第一に温度と時間の管理要件の厳しさにある。ワクチンなどバイオ医薬品は特に、適切な管理温度、外気に触れさせてよい時間などが製品ごとに厳しく定められており、逸脱した場合には医薬品としての有効性が損なわれてしまう。しかも、航空会社が担う空港間の輸送のみでなく、陸路も含めたオペレーション全体で基準を満たす必要があるため、社内外の関係者を含めた密な連携が品質管理の鍵になる。
サーマルブランケットが掛けられた貨物
安永:私たち品質管理課が中心となり、品質を担保するため、各部署と連携しながらさまざまな取り組みを行っています。たとえば、CEIV PHARMA認証は3年ごとに更新が必要なため、ANA Cargo社員をはじめとして、医薬品輸送に携わるすべてのメンバーを対象に2年に一度リカレント教育を実施しています。また、成田空港では毎年、CEIV認証で定められた品質に沿ったオペレーションがなされているか、医薬品オペレーションに携わるパートナー会社の監査も行います。
規格化されたパッケージに加え、プロジェクトごとに幅広いニーズに応える
安永に加え今回のインタビューに参加したのは、空港の現場の最前線を担う、成田ウェアハウスオペレーションセンター 貨物サービス部 運送業務課の水野千枝、そしてグローバルマーケティング部 マーケティング企画課の有薗進弥と八重樫里美。ANA Cargoの医薬品輸送を担う中心的メンバーとして、日々連携を取りながら、難度の高い業務に挑戦している。
八重樫:私たちマーケティング企画課では、産業別の商品開発業務を担っています。現在、医薬品輸送を取り扱う商品は「PRIO PHARMA」というシリーズで展開しており、温度管理コンテナの使用有無、輸送時間などいくつかの条件により、3つのラインナップを展開しています。

PRIO PHARMA
医薬品に特化した航空輸送。各製品の特性に応じた多様なサービスを提供し、温度管理、迅速で確実な輸送など、さまざまなご要望に丁寧かつフレキシブルにお応えします。
▶︎ サービス内容をみる
ANA Cargo グローバルマーケティング部マーケティング企画課 八重樫里美
八重樫:こうした既存の商品ではご要望を満たすことができない案件の場合には、事前に品質管理課や、実際にオペレーションを担う現場の管理を行っている運送業務課のメンバーにも相談しながら、個別に実現方法を検討します。さらに、継続的なニーズが見込まれるサービスについては、仕組み化して新たなパッケージとして商品化するケースもありますね。
水野:マーケティングチームから相談を受けた際には、温度や時間などの条件をもとに実際にオペレーションが可能なのか、私たち空港のオペレーション担当にて事前の検討を行います。安全性や法令遵守は徹底しながらも、できる限りお客さまのご要望にこたえるため、「この条件では難しいけれど、これなら」など、マーケティングサイドとやりとりしながら最適な解決策を探ることもしばしばです。
ANA Cargo 成田ウェアハウスオペレーションセンター貨物サービス部運送業務課 水野千枝
有薗:特に医薬品業界は、新薬が上市されたり、投与方法が変わったりなど変化が激しく、さまざまな輸送のニーズが生まれやすいんです。たとえばコロナ禍のワクチン輸送も、突然生まれた大量の輸送ニーズでした。また、コロナワクチンは現在は注射で投与することが一般的ですが、鼻から投与する「経鼻ワクチン」の研究も進んでおり、これが実用化されれば、新たな輸送方法のニーズも生まれるはず。世の中の動向の影響を大きく受けるので、常にアンテナを張っている必要があります。
ANA Cargo グローバルマーケティング部マーケティング企画課 有薗進弥
前例のない厳しい輸送条件に、チームワークで
対応
顧客ごとの個別の要望には、どのようなものがあるのか。厳格な温度管理が必要な医薬品輸送の依頼を受けた際のできごとについて、有薗と水野が振り返る。
有薗:品質維持のために厳格な温度管理が求められる場合、温度管理コンテナの活用が最も効果的なソリューションとなります。しかし今回、コスト面や搭載効率を考えて、コンテナを利用しない輸送方法のご要望がお客さまからありました。
そこで、水野をはじめとした成田のメンバーや、アメリカのセールス担当者と連携し、出発空港での貨物受託から航空機に搭載するまでの作業や、飛行中、そして日本に到着し航空機から取り下ろしたあと、空港内の上屋にある医薬品庫までの搬送、そして医薬品庫内での作業など、各工程での作業時間や環境温度をすべて洗い出し、作業手順を構築しました。
水野:特にチャレンジングだったのは、成田空港に航空機が到着し、貨物が取り下ろされてから上屋内の医薬品庫に搬入されるまで、外気への曝露時間が非常に限られていたことです。われわれは温度逸脱防止のために、航空機と貨物上屋の間の搬送時間に対する独自のKPI時間を設定していますが、それと比較しても大幅な短縮が必要となりました。
そこで、実際にハンドリングを担当するメンバーやお客さまも含め、どうしたら時間を短縮しながらも安全に貨物が運べるか、協議を重ねました。意見交換によって見出された解決策は、保冷トラックを活用すること。保冷トラックを、ランプと呼ばれる飛行機が駐機される場所に直接乗り入れたらどうかと。
保冷トラックをランプに入れるって、われわれ成田のオペレーション担当の常識としてはあり得なかったことなんです。申請手続きが非常に煩雑であり、リスクも伴います。そこで、模擬貨物を使ったトライアルを実施し、お客さまにも立ち会っていただいて。各種課題をクリアにし、ご安心いただいたうえで、オペレーション可能な体制を整えました。
ランプで保冷トラックへ積み込まれ搬送される貨物
有薗:お客さまから相談を受けてから、トライアルを行い、受託が決定するまで、約二ヶ月半ほどのできごとでした。本来なら半年ほどかけて準備する内容だと思うのですが、すぐにでも輸送を開始したい、というご要望になんとかお応えしました。結果的にお客さまにもとても喜んでいただけて、「プロジェクトXみたいで感動しました」なんてお言葉もいただきましたね。
水野:前例のないオペレーションを行うにあたっては、社内のメンバーやハンドリングを担当するパートナー会社から、当初は不安の声もありました。ですが、何度も協議を重ねてトライアルも実施することで、「不可能だと思われたことも、やればできるんだ」と。現場としても、固定観念にとらわれずにチャレンジすることも大切なんだと視野を広げられたプロジェクトでした。当初、不安の声を強くあげていたメンバーほど、いまは率先してこのような温度管理輸送のオペレーションに取り組んでいる姿が見られます。
国際的な勉強会への協賛も
また、2025年9月に日本で開催された、航空医薬品輸送に関する国際的な勉強会「Pharma Logistics Masterclass」の理念に共感し、ANA Cargoとして協賛。航空会社をはじめ、製薬会社、貨物フォワーダーなどさまざまなステークホルダーが集まり、講演やワークショップを通じて学びを深めた。
「Pharma Logistics Masterclass」勉強会の様子
一番左: ANA Cargoグローバルマーケティング部長 荒川 剛 / 一番右:ANA米州室貨物マネージャー 工藤 智樹
八重樫:弊社からも、社会課題に応じた医薬品輸送に関するプレゼンテーションを行いました。また、400島以上の有人島がある島国・日本ならではの課題への取り組みとして、ドローンを使った医薬品輸送の取り組みなどについてみなさまにお話ししました。海外からの参加者の方々にも関心をもって聞いていただき、弊社の医薬品輸送への真摯な姿勢を知っていただくことができたと実感しています。
ANA Cargo 専務取締役 湯浅大によるプレゼンテーションの様子
安永:私も当日は参加者として講演を聞いたりワークショップに参加したりしました。品質管理課はまだできたばかりの部署ですが、今後はイレギュラーが起こったあとの対処ではなく、起こる前に未然に防ぐための仕組みを整えていきたい。そのなかで品質向上に向けた各社の取り組みなどを情報交換できたことは、とても有意義な機会でした。
たったひとつの医薬品で、人生が変わる人がいる
航空機一機で運ばれる貨物が、たくさんの人々の健康を支える ーそんな社会的意義の大きな医薬品輸送にたずさわる4人。そんなかれらにとって仕事のやりがいとはどこにあるのか? 最後にたずねた。
八重樫:私にとっては、ゼロから商品をつくって世に出すことが大きなやりがいですね。お客さまへのヒアリングから、他社の商品研究、社内の関係部署との調整などさまざまなプロセスを経た末に、ようやく世に送り出され、社会に貢献することができます。
有薗:マーケティング企画の仕事は、新しい輸送方法を生み出すことですからね。世の中の時流に応じて、必要な医薬品が適切な状態で届けられる環境をつくるという仕事は、ダイナミックでやりがいにあふれています。
安永:私は入社してからずっと空港の現場で貨物のオペレーションを行っていたので、品質管理課に来るまでは本社のメンバーと関わる機会がなかったんです。異動してからは、医薬品輸送に関わる部署の多さ、かける熱量の高さなどを目の当たりにし、現場にいた頃とはまた別のかたちでその最前線に関わることに、身の引き締まる思いがあります。
水野:私は個人的なことなのですが、前職に勤めていた頃に一度体調を崩しまして。ちょうどコロナ禍の最中、国際物流が混乱していた時期で、「必要な薬が届かないかもしれない」と主治医に言われたことがあったんです。でも、医薬品輸送に関わる方々がなんとかしてくれたおかげで無事に薬が届き、今ここにいます。それをきっかけにANA Cargoに転職したので、幸運にも医薬品の業務にたずさわらせていただいていることに、勝手な使命感と責任感を感じています。
世界には私と同じように、たったひとつの医薬品で人生が変わる人がたくさんいます。その重要性を、業務に関わる全員に知ってほしい。ANA Cargoにしかできないことは何かを考えながら、お客さまに安心して医薬品をお預けいただけるオペレーションにつなげることが、私の使命だと思っています。
多様なニーズに応えるべく、さらなるアップデートは続く
2024年10月には、ANA最大規模の貨物上屋となる「ANA Cargo Base+」が稼働を開始した。これまで成田空港貨物地区内に点在していた6か所の上屋の機能を集約し、自動搬送車(AGV)によるオペレーションも取り入れることで効率化。温度管理施設の面積もかつての約5倍となり、ますます幅広いニーズに応える医薬品輸送が可能になった。
自動搬送車(AGV)が稼働している様子
一方で、梱包資材の進化やサスティナビリティ意識の高まりに伴い、お客さまが希望される輸送形態も広がりを見せている。こうした変化し続ける環境のなかでも、お客さまにとって、社会にとって「医薬品輸送なら、ANA Cargoに任せれば安心」ーそんな存在であり続けるために。これからも常にハード・ソフトのアップデートを重ね、磐石のチームワークで挑み続ける。
ANA Cargoのソリューションについての情報は
以下をご覧ください。
国際の貨物輸送に関しての情報をご確認いただけます。
安永茉由(ヤスナガ マユ)
株式会社ANA Cargo 品質保証部品質管理課
2018年ANA Cargo入社。成田ウェアハウスオペレーションセンター貨物サービス部運送課で、輸出部門の空港オペレーションを担当。2025年より品質保証部品質管理課に所属。マイブームは犬の歯磨き。
水野千枝(ミズノ チエ)
株式会社ANA Cargo 成田ウェアハウスオペレーションセンター貨物サービス部運送業務課
ANA中部空港株式会社より、2024年にANA Cargoに転籍。成田ウェアハウスオペレーションセンター貨物サービス部運送業務課のマネジャーとして、本社機能と現場の橋渡し役を担う。マイブームは博物館巡り。
有薗進弥(アリゾノ シンヤ)
株式会社ANA Cargo グローバルマーケティング部マーケティング企画課
2009年ANA Cargo入社。成田ウェアハウスオペレーションセンターで、空港オペレーションを担当したのち、2014年より営業部門で貨物代理店への営業担当として従事。2024年にグローバルマーケティング部マーケティング企画課へ異動、マネジャーとして医薬品輸送にたずさわる。マイブームはコロッケ。
八重樫里美(ヤエガシ サトミ)
株式会社ANA Cargo グローバルマーケティング部マーケティング企画課
2009年ANA Cargo入社。成田ウェアハウスオペレーションセンターで、輸入部門の空港オペレーションを担当。その後、海外サポート部海外サポート課、ANAのオペレーションサポートセンターへの出向を経て、2022年よりグローバルマーケティング部マーケティング企画課に所属。医薬品・美術品担当として従事する。マイブームは美術館巡り。
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