フレキシビリティ

“史上最も精密な”半導体機器×チャーター便で輸送プランをオーダーメイド。
マレーシア東部の都市で絆が生まれた瞬間

Cargo+フレキシビリティ

“史上最も精密な”半導体機器×チャーター便で輸送プランをオーダーメイド。
マレーシア東部の都市で絆が生まれた瞬間


国内のみならず、世界各国に顧客の大切な貨物を届けるANA Cargo。通常の貨物だけではなく、馬やパンダといったデリケートな動物や、高感度で繊細な半導体部品など、特殊な貨物の輸送を高い輸送技術で実現してきた。

ANAの国際線(旅客便/貨物便)は、北米やヨーロッパ、アジア、中国と全44空港(2025年3月現在)に広がるネットワークを持ち、国境を越え世界に安心と信頼をお届けし、ジャパンクオリティならではの高い品質の提供を目指している。ANAグループの強みはハイレベルな輸送基盤にあるといえるだろう。

ANA Cargoでは、定期便が就航している拠点だけではなく、顧客の要望に合わせてチャーター便を手配し、定期便が就航していない拠点(オフライン拠点)への輸送サービスも提供している。

2024年末には、チャーター便でマレーシア東部の都市へ超精密な半導体機器を輸送した。オフライン拠点への輸送に立ちはだかるさまざまなハードルを乗り越え、半導体機器という繊細な特殊貨物をどのように送り届けたのか。

航空会社のANA、荷主のニコン、両社をつなぐフォワーダーのケイラインロジスティクスが団結して取り組んだ一大ミッションの舞台裏に迫る。

"史上最も精密な機械"といわしめる半導体露光装置の輸送に不可欠なチーム体制

輸送先であるこの地域は、マレーシア最大規模の工業団地を擁し、新たなビジネス拠点として世界的に注目を集めている都市だ。現在も国内外から複数の企業が進出し、多くのメーカーが製造拠点を移している。この半導体機器輸送ミッションも、こうした背景を踏まえてのものだった。

今回輸送した特殊貨物は、ニコンをして"史上最も精密な機械"といわしめる半導体露光装置だ。回路パターンデータをシリコンウェハと呼ばれるシリコンの板に焼き付け、日常生活を支える自動車やスマートフォンの製造に欠かせない半導体を作り出す。

ニコン 生産本部 調達・物流統括部 ロジスティクス部の板垣亮平(いたがき・りょうへい)さんは今回の半導体露光装置の特徴についてこう補足する。

ニコン 生産本部 調達・物流統括部 ロジスティクス部 板垣亮平氏

板垣「半導体露光装置 は全長3メートル、重さは30トンを超える超大型かつ、超センシティブな精密機械です。少しでも衝撃が加わると内部部品が損壊し、致命的な事態になりかねません。それに加え、温度変化に敏感という特徴もあります。外気温によって装置のレンズ性能が変化したり、温度差で結露してしまったりすると製品の精度に多大な影響を与えてしまうため、航空便が適しています。輸送に対して少なからず不安を抱えていたところ、半導体露光装置の輸送実績のあるANA Cargoに確定しました。」

ANA Cargoには過去にニコンの半導体露光装置の輸送実績があり、特殊貨物輸送について卓越したスキルを持つ社員で構成される「プロフェッショナルユニット」を社内に抱えるなど、高い輸送品質を提供している自負がある。

「選んでいただいたとき、絶対に成功させると覚悟を決めました。」と語るのは国際貨物の営業活動を担当し、今回の輸送に関わったANA Cargo 日本統括室 東京販売支店の浜田竜太郞(はまだ・りゅうたろう)だ。

ANA Cargo 日本統括室 東京販売支店 浜田竜太郞

浜田「今回、チャーター便を手配したマレーシア東部の都市はANAとして初めての就航先ではありました。しかし、過去にオフライン拠点であるニュージーランドのオークランドへ人工衛星をチャーター便で輸送した実績もあり、『ANA全体として蓄積したノウハウを活かせるときが来た』と胸が高鳴りました。万全な輸送体制を整えるべく、フォワーダーのケイラインロジスティックスさまと何度もコミュニケーションを重ねました。」

フォワーダーは荷主と運送業者の間を取り持ち、いわば水先案内人の役割を果たす事業者だ。ケイラインロジスティックスは半導体輸送のノウハウがあり、輸送先のマレーシア東部にもネットワークを持っていた。同社プロジェクト部 半導体営業課の深味高輝(ふかみ・たかてる)さんはANA Cargoとの協業についてこう語る。

ケイラインロジスティックス プロジェクト部 半導体営業課 深味高輝氏

深味「フォワーダーはお客さまのご希望に沿って輸送方法を提案し、輸送の手配をする立場にあります。輸送業者を選定する際、ニコンさまに『ANA Cargoなら間違いない』と強調して提案させていただきました。条件が合致したのはもちろん、高い輸送品質や不測の事態への対応力などこれまでの信頼があったからです。胸を張って大丈夫と言い切れるのはフォワーダーとしても非常に心強さを感じましたね。」

航空会社、荷主、フォワーダー。航空輸送にはさまざまなステークホルダーが存在するが、今回の輸送の成功には3社の密な連携があったからこそだ。

衝撃リスクに配慮した精密機器のための航空輸送。ショックウォッチ・ティルトウォッチ付きの半導体製造装置や医療機器などの輸送に対応しています。
PRIO SENSITIVE→

温度管理や全量搭載に向けた工程整備。3社一丸となった体制構築

輸送にはさまざまなハードルを乗り越えなければならなかった。

オフライン拠点へチャーター便を就航させるためには、機材の確保だけではなく、ハンドリングに関するさまざまな調整が必要になる。準備期間には通常約3ヶ月を要するが、今回は輸送日まで2ヶ月を切っており非常にタイトなスケジュールだった。ネットワークやダイヤを調整するANA Cargo内の部署と連携し、粘り強く機材繰りや承認作業など準備を整えた。「こうした社内連携の強固さも成功の鍵だった。」と浜田は語る。

何より困難だったのは貨物のハンドリングだ。半導体露光装置は超大型で重量もあり、少しの衝撃も許されない特殊貨物。加えて温度変化にも極めて敏感であるため、慎重に輸送計画を立てる必要があった。3社で密に連携し、一歩ずつ体制を整えていった。

一定の衝撃を受けると中央のカプセル内が変色し、衝撃の有無を確認できる衝撃探知機。輸送環境のモニタリング、荷扱い者への注意喚起などを目的に使用されている。

衝撃を感知するショックウォッチを搭載することで、万が一の衝撃を可視化。特殊貨物用のパレットや超大型フォークリフトを手配し、衝撃を与えず安全に貨物を運ぶことのできる状況を整えた。

そして温度変化にも細心の注意を払わねばならない。半導体露光装置は厳しい温度範囲での輸送が厳守で、外気温に晒しておける時間にも制限がある。東京の年末の平均最低気温は約4℃なのにもかかわらず、高温多湿なマレーシア東部の年末の平均最低気温は約24℃と、急激な温度変化は絶対に避ける必要があった。

そのため、機体を上屋の目の前に駐機し、最短ルートで積み付けができるスキームを整えた。貨物によって曝露制限時間が異なるため線表(作業工程表)にも明確に書き起こし、関係者への共有も徹底。貨物が外気に晒される時間を極限まで少なくするためトラックから貨物を取り下ろす順番も取り決め、すべての工程において曝露リスクを排除していった。貨物室内の温度は出発の3時間前から調整するなど抜かりはない。

また、チャーター便のため、必ず全量を搭載する必要があったことも難易度を上げた理由だった。大きさも重さも異なれば、暴露制限時間も異なる貨物が全部で40個以上。貨物重量によっては機体に搭載できる場所も限られてくる。荷主の要望も受け入れつつ貨物室にすべて収めるために、まるでパズルのように搭載イメージを組み上げていった。

浜田「デッキのスペースはギリギリでしたが、プロフェッショナルユニットのメンバーと何度も打ち合わせをしながら、どうしたら全量載せきることができるか工夫しました。私自身、入社後は空港でフレイター機のオペレーション業務に携わり、現場を見ていたので、経験からある程度目測を立てることができたのも強みだったと感じています。ニコンさまにも助力いただけたのも非常にありがたかったです。」

少しのミスも許されなかった貨物の全量搭載は、ANA Cargoのノウハウと浜田が長年培ったスキルによって無事果たされた。その成功には、荷主であるニコンの協力も大きかったという。ニコン  精機事業本部 半導体装置事業部 品質保証部 石原淳一(いしはら・じゅんいち)さんはこう語った。

ニコン 精機事業本部 半導体装置事業部 品質保証部 石原淳一氏

石原「今回は、全量積み切れるように貨物の梱包材のサイズを変更するというニコンとしても特別な対応を行いました。今回のチャーター便で全量運び切る必要がありましたし、我々としてもANA Cargoの頑張りを見ていたのでなんとか応えられればと思ったんです。特注の箱を再構成する作業は非常に大変でしたが、無事載せ切ることができて本当に良かったです。」

一点の曇りもないほど、完璧に組み立てられた輸送プラン。ケイラインロジスティックスから現地空港特性の共有を受け、あらゆる事態に備えて盤石の体制が整った。いよいよ輸送当日を迎える。

卓越したハンドリングで顧客に寄り添う

当日は11時から搬入が始まり、18時35分に成田からマレーシア東部の都市へ飛び立つスケジュールとなっていた。積み付けにはニコンも立ち会い、作業の様子を固唾を飲んで見守った。

石原「特別に立ち会わせていただいたのですが、輸送工程のひとつひとつがとても丁寧で、あらゆるリスクを排する気配りをされていて非常に感動しました。」

徹底した事前準備が功を奏し、作業はスムーズに進んでいった。最難関であった10トン近くの重量を誇る半導体露光装置の主要部品の搭載は、機体に対して垂直に貨物を入れて内部で回転させて積み込む"回転搭載"で行われた。

10トン近くの重量ゆえ、少しでも壁にぶつけてしまうとその時点で貨物に甚大な被害を与え、航空機も大きなダメージを受けることになる。作業者の力量が十二分に問われる作業だ。そうした困難を極める搭載作業も、プロフェッショナルユニットメンバーの卓越したハンドリング技術により難なく乗り越えることができた。第一の難関を乗り越え、一同ほっと胸を撫で下ろしたという。

しかし安心するにはまだ早い。着陸時のハンドリングはもちろん、現地空港のイレギュラーな事態を想定し、気を緩めず離陸準備を整えていった。貨物と共に機体に乗り込んだ浜田は当時をこう振り返る。

浜田「積み込みは無事に進みましたが、今度は『着地の衝撃は大丈夫か』『無事に荷物を取り下ろすことができるか』と少しも気が抜けない状況でした。とにかく無事に荷物を送り届けたい、その一心でした。」

搬入から約7時間後、関係者の思いを乗せた「ボーイング777型フレイター」は飛び立った。

仕事相手を越え、絆が生まれた輸送プロジェクト

「ボーイング777型フレイター」がマレーシア東部の都市に到着したのは深夜0時を回った頃だった。見通しの悪い夜かつ、慣れない土地への着陸。現地へ前乗りしていた深味さんは、祈るような気持ちで到着を待ちわびていたという。

深味「私はただ待つしかありませんでした。到着予定時刻を回り、暗闇に飛行機が現れた瞬間は感動しました。まさにヒーローだと感じました。」

貨物を乗せた航空機は無事目的地に降り立った。取り下ろし作業も無事に進み、貨物に取り付けられたショックウォッチはすべて無反応。貨物を全量無事に引き渡したのは深夜3時だった。

浜田「関係者の皆さんと現地で巡り会えたときは感動して目に涙が浮かびました。無事に送り届けることができてよかったと、安堵の気持ちでいっぱいでした。別れるときも固い握手を交わし、仕事相手を越えて絆が生まれた瞬間だったと思います。」

明朝、無事に荷物が届いたことを知らされたニコン 板垣さんと石原さんの2人も、今回の成功を心から喜んだという。

グローバルに様々な産業を支え、着実に届けるANA Cargoのジャパンクオリティ

今回のプロジェクトはANA Cargo、ニコン、ケイラインロジスティックスが三位一体となり力を合わせたことで実現し得たといえるだろう。3社のメンバーはあらためてプロジェクトを振り返った。

板垣「半導体露光装置は"史上最も精密な機械"と謳っています。もちろん名に違わぬ繊細さですが、ニコンのものづくりを体現する言葉でもあります。そうしたセンシティブな貨物輸送に高品質なハンドリングで応えてくださったことを非常に嬉しく思っています。ANA Cargoのハンドリングには満足しています。」

深味「初の試みとなることも多く、輸送が形となるまでさまざまな課題がありました。都度、どうしたらできるようになるか、どうリクエストに応えていくか、複数の選択肢を提案し合いながらゴールに向けて進めていけたことが印象的でした。ANA Cargoの姿勢、提案力、こちらからのリクエストへの柔軟な対応力には脱帽です。」

浜田「弊社の航空輸送は、ただのサービスではなく世界のインフラに等しいものだと自負しています。航空貨物は多くの産業と密接に繋がっており、取り扱う商材も半導体装置から生鮮貨物まで多岐に渡ります。それゆえに世界規模で多くの産業を下支えするという矜持をもって仕事に向き合うことができますし、この仕事の一番面白い部分だと思います。今回の輸送で得たノウハウを元に、ANA Cargoとして今後も品質向上に努めていく所存です。」

マレーシア東部の都市というオフライン拠点へのチャーター便輸送だけでなく、非常にセンシティブな半導体機器のハンドリングも完璧な形で終えることができた本プロジェクト。今後もANA CargoとANAグループは、顧客のニーズにフレキシブルに応え、共に未来をつくるパートナーとして走り続ける。

ANA Cargoのソリューションについての情報は
以下をご覧ください。

国際の貨物輸送に関しての情報をご確認いただけます。

浜田竜太郞(ハマダ・リュウタロウ)

株式会社ANA Cargo 日本統括室 東京販売支店

2018年(株)ANA Cargo入社。成田空港で旅客便・ボーイング767・777型フレイター機の輸出ハンドリングを経験後、東京販売支店へ配属。マイブームはラーメン屋開拓。

板垣 亮平(イタガキ・リョウヘイ)

株式会社ニコン 生産本部 調達・物流統括部 ロジスティクス部

2010年(株)ニコン入社。半導体装置事業部での製品業務を経て、ロジスティクス部での物流業務へ配属となる。マイブームはスポーツ観戦。

石原 淳一(イシハラ・ジュンイチ)

株式会社ニコン 精機事業本部 半導体装置事業部 品質保証部

1984年(株)ニコン入社。半導体露光装置の製造部門を経験後、品質保証部の配属となる。マイブームはロードバイクでゆったりとしたポタリング。

深味高輝(フカミ・タカテル)

ケイラインロジスティックス株式会社 プロジェクト部 半導体営業

課2008年ケイラインロジスティックス(株)入社。成田空港にて通関、CS部門、本社にて営業、人事を経験後、現在のプロジェクト部半導体営業課へ配属。マイブームはスポーツ観戦。

Cargo+

選ばれる航空物流になるために、運ぶことに留まらないもう一つのプラスを提供したい、そんな思いからかCARGO+は生まれました。ある時はInnovationを、またある時はTeamworkを。ただ運ぶだけでは終わらない、私たちにしか出来ない価値を届けます。